NO IMAGE

ART TRACE GALLERY「闘争か逃走 Fight / Flight」

昨日、所属のART TRACE GALLERYで開催中のグループ展「闘争か逃走 Fight / Flight」のアーティストトークを聞きに行きました。
ギャラリーメンバーの橋本佐枝子さんの企画による、ご自身も所属する霜焼組のメンバーのグループ展です

今回の展示については事前にSNSで、展示作品の多くが心理学的な内容を扱ったものが多いという情報を得ていました。
私の仕事は心理臨床ですし、また仕事を通じて得た知見は作家活動にも大いに影響を与えているため非常に関心を持ったと同時に、このような作品が多いのはどのような理由からなのかとも思っていました。

アイデンティティをテーマとした展示との印象

しかしそれはステートメントの後半部分を拝見して推測できました。
「闘争と逃走に注目することは我々がどのように存在しようとしているかを観ること」

文中の特に「どのように存在しようとしているか」からは、よく「私は何者か」とも表現されるアイデンティティを連想します。
なぜならアイデンティティとは、自分はどのような人間なのかという自己理解を示す概念でありながらも、その認識のプロセスにおいては社会における存在価値あるいは存在意義というものが強く意識された社会的な概念であるためです。

またアイデンティティとは社会的な存在価値の有無やその内容への評価も伴うものであるため、自尊感情とも深く結びついた概念です。
このため自己紹介で語られる自己(私)とイコールとは限りません。

実際、アーティストトークの場では、作品説明を主眼としながらも、すべての展示作家から過去の個人的なエピソードが語られていました。
このようなことが生じたのは「存在しようとしているのか」という文言の時系列は未来を志向するものですが、アイデンティティというものが主に過去の体験から形作られるものだからではないかと考えられます。

ただ私にはこのような個人的な事柄を公にして良いものなのか判断がつかないため、説明のためにどうしても必要な事柄を除き、プライベートに配慮してその部分については原則触れないことにします。

アイデンティティを巡る葛藤

もっとも話の流れ自体は展示タイトルに合わせて、内面のことも含め何かとの闘争や逃避が語られていましたが、その内容が時折アイデンティティを巡る葛藤(闘争と言える状態)のように感じられたことが、これまで述べた印象へと結びついたのかもしれません。

苦しみから生まれた作品は時に自尊感情の源となる

またその苦しみの中で、多くの方がそのエネルギーを芸術作品へと昇華*されたようですが、その当時の作品に愛着のような特別な感覚が湧いたとしてもむしろ当然のように思えます。
なぜならその作品は自分が苦しみを乗り越えることができた証のような存在でもあるため自尊感情を高める作用をもたらすことがあるためです。
少なくても私が同じような経験をしたなら、そのように感じるような気がします。

補足)ここでは作家の精神内界の働きのみに焦点を当てており、このような作家にとって特別な作品が他者からどのような評価を受けるのかについては、私自身仮説を立てられる段階に至っておりません。

*ここでの昇華とは精神分析用語で、フロイトが唯一健全なものと考えた防衛機制です。

次のページは展示作家の霜焼きトマトさんの作品の感想です。

なお展示は5月20日(日)までで、木曜日は休廊です。
ART TRACE GALLERY「闘争か逃走 Fight / Flight」展示案内

NO IMAGE
最新情報をチェック!