写真家 田尻健二のウェブサイト(Ver.3)。撮影した写真・展示情報・写真をはじめとしたアート情報などを掲載。今後の展示予定:2018年11月30日〜12月2日 天王洲キャナルイースト「PHOTO CAMP」

ART TRACE GALLERY「闘争か逃走 Fight / Flight」感想

展示作家の作品の感想、2人目は三ツ井優香さんです。

ART TRACE GALLERY「闘争か逃走 Fight / Flight」三ツ井優香さんの作品

上の作品「お許し」は旧作で、下の作品「家庭内冷戦之図屏風」は別の旧作を同じコンセプトで描き直したものだそうです。

上の作品の感想

まず上の作品には暖簾(のれん)が描かれていますが、これはこの世とあの世、あるいは別世界との境界を表しているそうですが、アーティストトークでその話を聞きながら、若い頃にこのような境界が出てくる不思議な雰囲気の夢をよく見ていたことを思い出しました。

また双子のようにそっくりな人物が対峙している様子からは、自己の複数の側面の表れを連想させます。

下の作品の感想

上の作品に上述のような連想が働いたためか、その影響を受けて下の作品の説明を聞きながら以下のようなことを思い浮かべました。

まず上の作品の印象の影響受けて、左右の人物が乗っている赤黒い部分が、この世とあの世、あるいは魔界との境界を示しており、右の少女がその境界に結界を張るシャーマン(巫女)のように思えてきました。

フロイトとユングの想定した無意識の世界や互いの思想的特徴を対比

そしてこのような連想が働くにうちに、やがて二人の人物が同じ人の異なる側面、それもフロイトとユングの想定した無意識の世界や互いの思想的特徴を対比しているように思えてきました。

フロイトの無意識の理論と思想面の特徴

フロイトの想定する無意識とは、その人が経験した事柄の中で忘却あるいは抑圧されたものの集積物でした。
このためそこに含まれているのは過去の経験の何がしかであり、したがって未経験のものは含まれていません。
このような性質から、フロイトの想定する無意識はユングによって個人的無意識と呼ばれています。

またフロイトは、そのような性質の無意識を意識化して自我(意識)がコントロールする理性の働きを非常に重視し、そのプロセスの進行を心の成熟と考えました。

左の人物が体現するフロイトの世界観

このフロイトの世界観を体現しているのが左の人物と考えられます。
身なりを整え、きちんと正座したその姿からは理性の働き(自己コントロール力)が連想されます。
また背後のパンプスを履いた足元からも、理性の働きを重んじるビジネスの世界の力が感じられると同時に、それは馴染みの世界でもあることから個人的な事柄を連想させます。

ユングの無意識の理論と思想面の特徴

対してユングは、人生の前半には社会適応のためにもフロイトが重視した理性による自己コントロール力の必要性を認めながらも、老年期に差し掛かる頃からの後半においてはその成熟した自我を手放し、シャーマニズムの世界で信じられているような神秘的な力に身を委ねる必要があると考えました。
そしてこの後半期のプロセスを個性化と名づけました。

また神秘的な力の存在を信じるユングは、無意識の領域にもその力が及んでいると考え、その個人の経験以外の事柄で構成される領域を集合的無意識と名づけました。
なおこのような領域が存在する根拠を、ユングは自身が見た個人的経験では説明がつかない夢や、世界中の神話や精神病(今日の統合失調症)の人の空想に多くの共通点が見られることなどに求めています。

右の人物が体現するユングの世界観

このユングの世界観を体現しているのは右の人物と考えられます。
既述のように彼女の姿からはスピリチュアルな力が感じられ、フロイトが重視した理性による自己コントロールとは無縁の世界に生きている人のようにさえ感じられます。
その理性に代わって彼女を導いているのが、背後の手の一群に象徴される集合的無意識の力です。

またこの手の仕草にも、集合的無意識の力の特徴が表れているように思えます。
スピリチュアルな力は、逆らう者には非常に厳しい試練を与える一方、身を委ねる者には安心感をもたらし心の拠り所となるような働きをします。
この手の仕草からは受容的な神の雰囲気が感じられます。

追伸)特に下の作品は非常に個性が感じられ、個人的にとても気に入っています。

参考文献

カール・グスタフ・ユング著『無意識の心理 新装版: 人生の午後三時』、人文書院、2017年

次のページにはコヤマイッセーさんの作品の感想を書きます。

展示は5月20日(日)までで、木曜日は休廊です。
ART TRACE GALLERY「闘争か逃走 Fight / Flight」展示案内




写真家 田尻健二
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