青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』~自己表現の概念の理解に役立った本

今回紹介したい本は、ミホリトモヒサさんの個展佐野光子さんの個展の感想でも援用した、青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』です。

実在論と近代的な認識論における「美」の概念の違い

美学の類書にはあまり見られない本書の特徴の1つは、西洋社会において中世、すなわち18世紀までは規範としての地位を有していたプラトンの流れを汲む実在論の解説が充実しており、さらにその実在論と近代的な認識論とが系譜も含めて分かりやすく対比されていることです。

この「美」に関する両理論の違いを私なりに整理しますと、実在論における「美」が人間によって認識されるか否かに関係なく、不変的なものとしてこの世に存在していると考えられるのに対して、近代的な認識論における「美」とは人間によって認識されることで初めて生まれるものであり、したがって心の中にしか存在しないものと想定されているという違いです。

この両理論の違いが、前者ではプラトン、アリストテレス、ライプニッツ、ディドロ、後者ではデカルト、カント、バウムガルテンなどの考えを参照しながら簡潔に説明されていることが本書の特徴です。

「世界の表現」と「自己の表現」との対比

また他の著書も含めた青山さんの著書のもう1つの特徴が、18世紀までは常識であった「世界の表現」と、19世紀以降の常識たる「自己の表現」との対比です。

私たちアーティストは、表現と聞けば即座に自己表現のことを思い浮かべるほど、「自己の表現」に慣れ親しみ、かつそれを重視しています。
具体的には出来上がった作品やそれを生み出す自らの行いが自己表現になっているか(自己表現として成立しているか)どうかを折に触れて気にかけています。

しかし本書をはじめとした青山さんの著書によれば、表現にはもう1つ「世界の表現」というものが存在し、18世紀までは表現といえば専らその「世界の表現」の方を指していたことが明らかにされています。

この表現に関する2つの異なる概念の存在を知ったことで、私の中でそれまで曖昧であった自己表現の意味合いが理解でき、個人的にはこの点が一番の収穫でした。
(自己表現については後日記事にする予定です)

大学院のテキストでありながら説明は平易

本書にはこの他にも音楽・演劇・文学・映画・建築などにおける美学・芸術学の解説が収められていますが、大学院のテキストでありながら全体的に平易な説明がなされていますので、哲学的な考察にそれほど馴染みがない方でも十分読みこなせるはずです。

なお放送大学のテレビ講義で同名の科目が開講されていますので、併せて視聴されることをお勧め致します。

紹介文献

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』、放送大学教育振興会、2013年

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』
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