青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』~自己表現の概念の理解に役立った本

青山昌文著『美学・芸術学研究』の紹介記事。2ページ目は書籍のタイトルにもある美学芸術学について取り上げます。

私の美学に関する大きな誤解

お恥ずかしい話ですが、これまで私は美学と芸術学との違いについてよく知らず、漠然と次のように考えていました。

美学~美術を考察対象とする学問
芸術学~芸術を考察対象とする学問

したがって造形芸術のみを考察対象とする美学よりも、舞台芸術や映画、文学、詩、音楽など、その他の芸術も扱う芸術学の方が、考察範囲が広いと思っていました。

美学とはこの世のあらゆる美について研究する学問

ところがこの私の理解は誤りで、特に美学の考察範囲について大きな誤解をしていました。
『美学・芸術学研究』によれば、美学とはこの世のあらゆる美について研究する学問であり、したがってその考察対象は所作や心の在り方、さらには数式など非常に多岐に渡るため、芸術学よりも遥かに考察範囲の広い学問だったのです。

芸術という概念は少なくても古代ギリシアの時代に既に存在していた

続いては芸術学の考察対象たる芸術についての誤解です。
これまで私は芸術という概念を、近代に初めて生まれたものと考えていました。
もっとも昔からこのように考えていたわけではなく、専門書を読み始めて初めてから蓄えられた知識です。つまりこのように考えている研究家が少なくないということです。

ところがこの芸術概念の生成過程に関する歴史についても、『美学・芸術学研究』によれば誤りとなります。
同書によれば、芸術という概念は少なくても古代ギリシアの時代に既に存在していたようです。

ではなぜ芸術という概念が、近代の産物との誤解が生まれるのか?
こちらも同書を援用すれば、ここでの芸術とは今日私たちが慣れ親しんでいる類の概念を指しており、その昔から存在した芸術という概念とは大きく異なっているためと考えられます。

具体的には1ページ目でも触れましたように、近代以降の芸術が自己表現を目的とした創作行為を指し示すのに対して、中世以前の芸術とは専ら世界の表現を目的とした創作行為を意味していました。
つまり近代になって初めて生まれた自己表現を目的とした創作行為を芸術と想定しているため、その起源も当然近代となるわけです。

先史時代の造形物を芸術的な創作行為とみなすことについては、未だに懐疑的

最後に『美学・芸術学研究』の記述から、自己表現とは異なる目的を有した芸術の概念が、近代以前から既に存在していたことは理解できました。
しかし洞窟壁画など古代ギリシア文明が登場する以前の先史時代の造形物については、今でもそれを芸術的な創作行為とみなすことには懐疑的です。

もし仮に何らかの創作的な欲求が存在したとしても、それは現代の私たちの自己表現とも、あるいは古代ギリシア人の世界の表現とも異なるものであったと考えています。

補足) 洞窟壁画の芸術性に関する考察は「私説:アウラと関連づけられるのは芸術作品の礼拝価値ではなく展示価値の方であり、複製技術の進展とも相関性の低い概念」をご覧ください。

紹介文献

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』、放送大学教育振興会、2013年

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』
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