写真家 田尻健二のウェブサイト(Ver.3)。撮影した写真・展示情報・写真をはじめとしたアート情報などを掲載。今後の展示予定:2018年11月30日〜12月2日 天王洲キャナルイースト「PHOTO CAMP」

川口幸也編『展示の政治学』〜俯瞰的な視点から展示の力関係(権力構造)を考察し、かつ展示者やアートプロジェクトの暴力性をも取り上げた良書

川口幸也編『展示の政治学』

『展示の政治学』を購入したきっかけ

川口幸也編『展示の政治学』、今週から読み始めた本です。
本書を購入したきっかけは、川口さんの思想を知りたかったからです。

川口さんのことは2015年より在籍している京都造形芸術大学のウェブスクーリング科目の教科書『芸術教養シリーズ8 アジア・アフリカと新しい潮流 近現代の芸術史 造形篇II』で知りました。
その本のアフリカの美術を紹介する章で、サイードの『オリエンタリズム』などを引き合いに、ポストコロニアル的な視点から、アート業界全体がいかに西洋の価値観に支配され、かつそのことに(私たち日本人も含めて)西洋社会から見れば周辺に属する地域の人々までもが無自覚であることを論じていらっしゃいました。

そしてその考えに深く共鳴し、もっと深く知るために彼の著書を読んでみたいと思ったのが直接のきっかけです。
なお他にも著書はありますが『展示の政治学』を購入したのは、この本しか本屋になかったことに加え、後述する内容の俯瞰的な視点が気に入ったためです。

俯瞰的な視点から展示の力関係(権力構造)を考察

『展示の政治学』の1つめの特徴は、本のタイトルが示すように、展示を「見せる側」と「見る側」との間の力関係、つまり権力構造を解き明かしていることです。

もっとも「見せる側」と「見る側」との関係性は、見せる側に属するアーティストにとっても重大な関心事で、そうしたことを折に触れて取り上げることがトレンドにさえなっているようです。

ただし、そこで表明されたり交わされたりする内容の多くには「見る側」の立場に立った共感的な視点は滅多に存在せず、その多くは「見せる側」のみの視点に立った解釈か、あるいは人間同士の関係を扱っているにもかかわらず非常に観念的なものです。

ですから『展示の政治学』には、普段私たちが考慮していると勘違いしている関係性について、俯瞰的な視点から豊富な事例に基づいた考察がなされています。

展示者やワークショップをはじめとしたアートプロジェクトの暴力性についても考察

『展示の政治学』のもう1つの特徴は、展示者やワークショップをはじめとしたアートプロジェクトの暴力性についても考察がなされていることです。
特に後者は、マスメディアやインターネットを通じて連日のように、それを通じて多くの人々が幸せになっている旨の情報が発信されていますので、アーティストの社会貢献の重要なツールのように思われている節があります。

ですが『展示の政治学』では、そのアートプロジェクトに対しても、ファシズムの視点からメスを入れています(鷲田めるろ「アートプロジェクトの政治学「参加」とファシズム」の章)。

多分に自己愛的なアーティストがアートを批判的に検証することは困難

これまで旧サイトの「芸術の心理学」のカテゴリの記事の中で、私たちアーティストは平均以上に自己愛的であると述べて来ました。
ここで自己愛的とは、自己中心的であると同時に、他人から悪く思われたくない、良い人間と思われたいとの気持ちが人一倍強いことを意味します。
そのような性格の人が反省を試みても限界があります。どこかの時点で自分を守る(自尊感情を維持する)ために物事を都合よく解釈し始めてしまうためです。

また自己愛的な人には、自分が価値を感じていることに対しては過剰なまでにそれを理想視し、実際以上に価値を高く見積もる傾向もあります。
そのため、このような性格のアーティストがアートに対して批判的な検討を加えることなども当然難しくなります。

ですから多分に自己愛的な私たちには、『展示の政治学』のようなアーティストの内輪以外の人による関係性に関する考察は、自分ではなかなか気づけない貴重な情報をもたらしてくれるはずであると私は考えています。
(少なくても私にとってはそうでした)

補足)『展示の政治学』の他に「見せる側」の暴力性を扱った本として『人工地獄 現代アートと観客の政治学』があります。
ただしこちらはアートプロジェクトの当事者か、もしくはその歴史に通じた人でない限り、難易度が高いと感じました。

紹介文献

川口幸也編『展示の政治学』、水声社、2009年

追伸)その後『展示の政治学』を読み進めていて疑問を感じる記述が出てきましたので、その点を次のページに加筆しました。




写真家 田尻健二
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