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刺繍作家 前野めり〜アウトサイダーな作家としての生き方

今日、興味深い作家の方にお目にかかりました。
ギャラリーダズルで個展を開催中の前野めり氏です。

前野めり個展「ストーリー・ハズ・カム」展示風景1

前野めり氏の作品は刺繍で仕上げられていますが、典型的な刺繍作家とは異なり、一貫して黒糸のみで編み込まれたモノトーンの作品を作り続けているそうです。
(一部、差し色として一色だけ色糸が使われた作品もあります)

苦手意識をそのまま作風にしてしまう姿勢

その理由を尋ねると、返って来た答えがユニークでした。
色使いに自信がないため、その苦手意識を逆手にとって自分のスタイルにしてしまった結果なのだそうです。
これは多くの作家が苦手な領域を問題視し、それを努力によって克服しようとするのとは、非常に対象的な姿勢です。

メンタル不調から抜け出したいとの必死の思いが作家活動のきっかけとなった

この前野氏のユニークな姿勢は、彼女が作家活動を始めるきっかけにも表れていました。
前野氏は14年前に京都の美大のテキスタイル学科を卒業されていますが、卒業後は制作を断念しクリエイティブとは無縁の人生を送って来たそうです。

ところがその後メンタルに不調をきたし、その際に読んだ自己啓発本に書かれていた「雑巾のようなものを無心になって縫い続けることで精神状態が改善する」旨のアドバイスに触発され早速それを実践したところ、美大出身で子供の頃から絵を描くの好きだったこともあってか、今日まで続く刺繍作品を作りたくなり、それが高じて作家活動を開始するようになったのだそうです。

無理せずとも実績を残して来た

以上のように前野氏は、作家活動を始めるきっかけも、作風の選定の仕方も、典型的なアーティストとはかなり異なるアウトサイダーな生き方をして来た方です。
しかしそれにも関わらず、多くの展示機会に恵まれ、かつ2016年の「UNKNOWN/ASIA」におけるレビュアー賞「林容」賞受賞や、今年の「TIS公募」入選などの実績を残されています。

恐らく前野氏は、メンタルに不調をきたした時期に相当辛い思いをされ、その経験から無理をしないことや現実を受け入れることの大切さやメリットを学ばれ、それを作家活動に活かされているのだと思います。

作家活動に限らず、私たちはとかく他者からの要求や期待に応える努力を惜しまないことで初めて評価されると思い込みがちですが、前野氏の作家としての生き方は、そうではない評価を得るルートも存在することを示してくれているように思えます。

展示は明日10月14日(日)の17時まです。
前野めり個展「ストーリー・ハズ・カム」 | exhibitions | gallery DAZZLE

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