前回の「アラン・コルバン著『身体はどのように変わってきたか〔16世紀から現代まで〕』」に引き続き、今回の記事もオススメ本の紹介です。
今回の紹介本はロズウェル・アンジェ著『まなざしのエクササイズ ─ ポートレイト写真を撮るための批評と実践』です。
ボロボロになるまで読みこなした宝物のような一冊
本書を購入したのは3、4年前だと思いますが、何度も読み返しているためか、写真のように表紙が既にかなりボロボロになっています。
それだけ私にとって価値ある宝物のような一冊なのでしょう。
しかも現在のように人物を撮り始める前から愛読していたのですから、よほど役立ったのだと思います。
『まなざしのエクササイズ』の特徴その1〜作品解説だけでなく作家の信念も掲載
『まなざしのエクササイズ ─ ポートレイト写真を撮るための批評と実践』の特徴の1つ目は作家の信念に関する記述が豊富なことです。
シャーロット・コットンの『現代写真論 新版 コンテンポラリーアートとしての写真のゆくえ』と同じく、いくつかのテーマ基づき著名な写真家の作品の解説が載せられていますが、『まなざしのエクササイズ』の特筆すべき点は、作品解説のみならず、その作品を生み出すに至った作家の信念も併記され、かつ後者に力点が置かれていることです。
作品の解説(解釈)も特に初学者にとってはとても有難いものですが、私は心理療法家という仕事柄か、その人が作品や言説を生み出すに至った信念の部分、つまり「なぜそのようなものを作ったり、あるいはそのように考えるのか」ということにとても関心があるため、『まなざしのエクササイズ』のようなスタンスの書籍はとても参考になります。
信念に触れることで、偉大な作家を身近に感じることができるようになる
また私がそうした情報に惹かれるのも、信念というものがその人の自尊感情の源と言えるほど極めて重要な要素であるため、その信念に触れることでその人の心に接近できる、そうして偉大な写真家を身近な存在として感じとれるようになることも影響しているのかもしれません。
アンジェの偉大な写真家の信念に触れる巧みな記述を読んでいると、まるで彼がここに掲載されている写真家すべてと親しい間柄なのではないかと錯覚してしまいそうです。
なぜなら彼の著述のスタイルは、まるで撮影現場に居合わせているかのような臨場感を伴っているためです。
このアンジェの優れた著述スタイルも相まって、ますます偉大な写真家の心の接近できているかのような錯覚を引き起こし、それゆえどんどん作家に対する興味が増していく。
こうして何度でも読み返して見たくなってしまうのかもしれません。
愛読書ゆえかベタ誉めの書評になってしまいましたが、次回掲載する2ページ目では『まなざしのエクササイズ』のもう1つのユニークな特徴と、あくまで私見ですが、その特徴が特定のタイプの人にもたらすメリットについて述べる予定です。
紹介文献
ロズウェル・アンジェ著『まなざしのエクササイズ ─ ポートレイト写真を撮るための批評と実践』、フィルムアート社、2013年
補足)翻訳者は大坂直史さんのため、六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートでも購入できます。
私もそこに置かれていて本書のことを知りました。
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