『まなざしのエクササイズ』の特徴その2〜章ごとに実践的なエクササイズが掲載されている
『まなざしのエクササイズ ─ ポートレイト写真を撮るための批評と実践』の2つ目の特徴は、章ごとに実践的なエクササイズが掲載されており、しかもその内容が非常に実験的なことです。
芸術作品を制作するための観察力を鍛える
大学等のカリキュラムにもエクササイズは数多く盛り込まれていますが、その多くは基本的なテクニックの取得が目的です。
しかし『まなざしのエクササイズ』におけるエクササイズは、撮影テクニックよりも芸術作品を制作するためのマインドを鍛えることを意図したものになっています。
例えば第1章の「見るということ」のエクササイズは、広告写真の巨匠リチャード・アヴェドンの撮影術を追体験するような内容となっています。
具体的にはカメラの操作は最小限にして、1時間の間カメラのレンズを見つめる被写体をくまなく観察することで「見る」というよりもそれにより細かいことに「気づく」力を養うエクササイズです。
テクニックを自在に操る
こうしたエクササイズをこなしていくことで、コンセプトと呼ばれる作品のアイディアを具現化するためにテクニックを自在に操るスキルが磨かれていきます。
前述の観察力も、作品を生み出すために必要とされるテクニックの1つです。
芸術写真において、撮影術を含むテクニックはアイディアを具現化するための手段に過ぎません。
しかしその手段なくして作品が完成することはありません。
ですからその手段を自在に操るスキルは非常に重要なのです。
実験的なエクササイズから得られた気づきはアイディアの元となる
また逆説的ですが、前述の観察力を鍛えるエクササイズは、そこから得られた気づきがヒントとなり作品のアイディアへと結実することも多々あります。
このようにアイディア(作品コンセプト)とそれを実現するための手段とは、実は完全な主従関係にあるのではなく、むしろ常に相互作用を生み出していると言えます。
ですから『まなざしのエクササイズ』に掲載されたエクササイズは、それ自体はエクササイズに過ぎないものではあっても、相互作用により作品コンセプトを生み出す可能性を秘めています。
特にその実験的な内容はアイディアの創作意欲を大いに刺激するはずです。
相互作用の存在を常に念頭に置きエクササイズに臨む
以上の考察から、大切なのはその相互作用の存在を常に念頭に置き、撮影その他の行為を行うことです。
そうすればエクササイズが、単なる練習以上の効果をもたらしてくれるはずです。
紹介文献
ロズウェル・アンジェ著『まなざしのエクササイズ ─ ポートレイト写真を撮るための批評と実践』、フィルムアート社、2013年
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