写真家 田尻健二のウェブサイト(Ver.3)。撮影した写真・展示情報・写真をはじめとしたアート情報などを掲載。今後の展示予定:2019年6月27日~7月19日 El Nido, Pasto, Colombia「Desde / HAsia」、8月7日~8月17日 TOKI Art Space「THE LIBRARY 2019」

アーティストが最も理論を求めているという興味深い現象と、その要因に関する私説

小崎哲哉著『現代アートとは何か』

アーティストが最も理論を求めているという現状

先日紹介した小崎哲哉著『現代アートとは何か』を今も読み進めていますが、同書にとても興味深い現象を紹介している箇所がありました。
それはアーティストが最も理論を求めているという現象です。

確かに私の周囲の、特に20~30代の現代アートを志向するアーティストには、理論書や人によっては哲学書を読んでいる人が多いようです。
それに対して同書によれば、例えばギャラリストなどは『アートフォーラム』のようなアート理論誌を購読していたとしても、目を通すのは広告のみで、肝心の記事(批評)はほとんど読まないそうです。

ではなぜアーティストだけが熱心に理論を求めるのか?
その要因を同書では、ボリス・グロイスの見解を援用しつつ次のように分析しています。

近代化によってグローバル化が進み、唯一であったはずの(西洋の)伝統は急激に崩壊し、無数の伝統と無数の異議申し立てが地上に溢れるようになった。そのような状況下では、何がアートであるのかを説明する理論が求められる。そのような理論こそが、現代のアーティストの作品を普遍化し、グローバル化する可能性を与えてくれるからだ。
理論に頼ることによって、作家は自らの文化的アイデンティティや、特定の地域の変わった作品と受け取られる危険性から解放される。これが、現代において理論が盛んである理由である。

ただ私個人は、この理由付けによって動機づけられるのは、主に非西洋の文化圏のアーティストのように思えました。
なぜなら海外の展示に参加するようになってから、日本人アーティストの作品に対してサイードが『オリエンタリズム』で焦点を当てた異国趣味や、あるいは普段目にしているものとは異なる代物(オルタナティブ、代替品)を求めたり、もしくはそのような文脈で解釈されたりすることがよくあることを知ったためです。

ですから非西洋の文化圏に属するアーティストにとっては身近で切実な問題であったとしても、西洋の文化圏のアーティストが「自らの文化的アイデンティティや、特定の地域の変わった作品と受け取られる危険性」を感じているとの指摘はあまり腑に落ちませんでした。

また同書の別の箇所でも指摘されているように、かつての西洋の価値観一辺倒の状態は崩れ始めているとは言え、どの文化圏の価値観も対等な影響力を有しているとはとても言えず、西洋の価値観は未だにグローバル・スタンダードの地位を保っており、またアート・ワールドの規範作りに最も大きな影響力を有しているのもやはり西洋人のように思えます。

つまりサイードが『オリエンタリズム』で提起した問題は、それに関心を持つ人が徐々に増えてはいるものの、依然として趨勢に大きな変化はないというのが私の印象です。
まただからこそ現代アートを志向する私たち日本人アーティストも、その西洋の流儀を取り入れ、熱心に主として西洋文化の理論を吸収しようとしているのではないでしょうか。
(大多数の現代アートを志向する日本人アーティストの理論への傾倒は、内発的な学習意欲からではなく、どこかでそのような姿勢が現代アートのグローバル・スタンダードであるらしいことを見聞きしたからではないかと推測しています)

性格構造の自己愛化が作品の理論的説明を欲する

したがって西洋人アーティストに生じた理論への傾倒を説明する私なりの要因は、世界レベルで進行している性格構造の自己愛化です。

カウンセリングのサイトの自己愛講座1にも書きましたように、自己愛的な性格とは他者からの肯定的な評価による自尊感情の維持に心を奪われているような心理状態を指します。

これは見方を変えると、自分がどのような人間であるのかを自分で規定しその見解を信じる能力が乏しいため、それを常に他者(自分以外の誰かや何か)に規定してもらう必要性に駆られていることを意味します。
したがって、このニーズがいわば自分の分身と言えるほど自尊心にとって重要な作品を理論によって説明したい(あるいはして欲しい)と欲する主たる要因ではないかと考えられます。

前述のように、今でも西洋の価値観がグローバル・スタンダードの地位を維持している現状を鑑みると、その文化圏に属するアーティストに「自分の作品をグローバルな視点で評価して欲しい」との欲望が生じる必要性があまり感じらません。
このためそれに代わるニーズして、性格構造の自己愛化の影響を想定してみました。

加えて非西洋人アーティストには西洋社会の流儀の取り入れも存在しているはず

もっとも自己愛化は世界レベルで進行していると考えられますので、当然日本人をはじめとした非西洋人についても同様のことが言えるはずです。
このため非西洋人については、性格構造の自己愛化に加えて、前述の西洋社会で形成される現代アートのグローバル・スタンダードを取り入れることで、自分たちの作品も正統なものと認めて欲しいとの願いも存在し、もしかしたら後者の影響の方が大きい可能性もあると考えています。

引用文献

小崎哲哉著『現代アートとは何か』、河出書房新社、2018年




写真家 田尻健二
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