要約:森美術館「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」のヴォルフガング・ライプの展示スペースでは、台の上に敷き詰められたヘーゼルナッツの鮮やかな黄色の花粉が、透過光越しに見ているような美しさを放ち、また蜜蝋の作品もそのスケール感に圧倒された。
「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」の概要と展示構成
先日、仕事帰りに六本木の森美術館で「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」を拝見した。
サブタイトルの「五感を研ぎ澄まし、想像力を働かせて、リアルな空間でアートと出会おう」が示すように、普段は思考の脇に追いやられがちな感覚や想像力が喚起されるような作品を作り続ける作家を集めたグループ展である。
展示構成は、最初のスペースにオノ・ヨーコのアーティスト・ブック『グレープフルーツ』とその中に収められたテキストが配置され、そのあとに他の作家ごとの展示スペースが設けられていたが、オノの作品だけは他の作家の展示スペースの近くにも配置されていた。
このことから今回の展示では、オノの作品が非常に大きな比重を占めていることが窺える。
なお一番のお目当ては二十数年ぶりに花粉の作品を拝見できるヴォルフガング・ライプ(Wolfgang Laib)だったが、もっとも印象に残ったのはオノ・ヨーコと飯山由貴の作品だった。
オノ・ヨーコの作品の感想は後日別の記事で詳しく触れることとし、今回は他の作家の作品の中で特に印象に残ったものを取り上げる。
ヴォルフガング・ライプの作品の感想
まず最初に取り上げるのは、オノ・ヨーコの次に展示されていたヴォルフガング・ライプ。
以前に7days Book Cover Challengeの記事でも触れたように、ライプの作品を初めて見たのは1990年にワタリウム美術館で開催されたグループ展「Light Seed」。
※他の参加作家はサイ・トュオンブリーとミシェル・ヴェルジュ。
そのときに見たヘーゼルナッツの花粉の作品の美しさが忘れられず、今回同様の作品が見られるとあって非常に楽しみにしていた。
ところが今回の「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」では、同じヘーゼルナッツの花粉を使った作品でも、ワタリウムのグループ展とは見せ方が大きく異なっていた。
透過光越しに花粉を見ているような美しさ
ワタリウムの展示では、床の上に直接ヘーゼルナッツの花粉が敷き詰められ、中心付近は10cmくらいの高さに盛られていた。
しかし「地球がまわる音を聴く」では、大理石のような素材の立方体の表面にヘーゼルナッツの花粉が薄く敷かれていたためか、花粉の物質性はあまり感じられず、その代わりまるでライトビュアーを使用して透過光越しに見ているような美しさが感じられた。
続いて蜜蝋を使った作品を紹介する。