最終日の昨日、HBギャラリーの長嶋由季個展『Our voice becomes their song(私たちの声は、やがて彼らの歌になる)』を見てきました。
展示タイトルの「私たちの声は、やがて彼らの歌になる」というフレーズに惹かれたためです。
ただ、出がけのトラブルで到着が閉廊1分前になってしまったため、ゆっくり拝見できず、また長嶋さんからお話を伺うこともできなかったのは残念です。
大地とのつながりを感じる作品
こちらの5点が今回の展示作品です(クリックで拡大表示)。
いずれも大地とのつながりを強く感じる作品で、中にはカンブリア紀に生息していたような生物が描かれるなど、時空を超えた世界観が展開された作品もありました。
空想を作品の形で可視化
なおネット上で、長嶋さんが日頃の制作について明かした動画が公開されていました。
Yuki Nagashima: When the sun sleeps, the moon dances | AKIINOUE
動画にもありますように、長嶋さんは作品の形で空想を可視化すること日々実践され、またそれゆえ、あらゆるものが作品のモチーフになり得ると考えていらっしゃるようです。
その結果、作品の中で時空を超えた世界が展開されることになったのでしょう。
トランスパーソナルな世界観
また長嶋さんの作品の世界観からは、スピリチュアルな領域も扱うトランスパーソナル心理学の世界観との繋がりを感じました。
トランスパーソナル心理学では、関係性を以下の3つのレイヤーで捉えています。
・自己との関係
自己認識など意識を自分に向けている時の関係性
・他者との関係
一般的な人間関係
・世界との関係
トランスパーソナル心理学はユング心理学の影響を強く受けているため、ここでの世界とは宇宙全体、さらには過去や未来をも含む時空間との関係を指しています。
長嶋さんの作品世界からは、特に最後の(トランスパーソナルな)世界との関係が可視化されているような印象を受けました。
ヒルマ・アフ・クリントとの関連
さらに空想を精神世界と関連づければ、少し前まで近代美術館で展示が開催されていたヒルマ・アフ・クリントとの関連も連想されます。
インタビュー動画では明示されていませんが、長嶋さんが空想される世界には、個人的な経験から生まれる領域を超えた集合的な要素が感じられるためです。
トキ・アートスペースの展示空間に適した作風
最後に余談ですが、長嶋さんの大地や地下世界、古代の生物などが描かれた作品は、このあと足を運んだトキ・アートスペースの展示空間に適しているようにも思えました。
トキ・アートスペースは展示空間が半地下にあり、奥行きもあるため、穴蔵のような構造になっています。
このため、これまで大地を想起させるような作風の方が多数展示されています*。
*私も一度、個展をさせていただいたことがあります。
田尻 健二「症状の肖像」
追伸)7月12日から代官山のAKIINOUEというギャラリーで、別の個展が開催されているようです。こちらもぜひ拝見したいと思っております。
長嶋由季 太陽が眠るとき、月は踊りだす – AKIINOUE
参考文献
諸富祥彦著『自己成長の心理学: 人間性/トランスパ-ソナル心理学入門』、コスモス・ライブラリー 、 2009年
カール・グスタフ・ユング著『人間と象徴 上巻・下巻―無意識の世界』、河出書房新社、1975年