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スパイラルガーデン「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展 帰国展」〜高嶺格氏の作品感想

先週、スパイラルガーデンで開催された「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展 帰国展」を最終日に見て来ました。
特に印象に残ったのは高嶺格氏の作品でした。

高嶺格氏の作品感想

作品コンセプト

今回、帰国展のために新たに制作された高嶺氏の作品は「キューバからフロリダに流れ着いた船の表面をフロッタージュし、それをプリントしたTシャツを舟型のまわりにびっしりと並べると同時に、江戸時代の漂流者を記録した掛軸を展示することで移動する人々の存在と彼らの経験を想像させる」というものです。

作品から奴隷船の内部を連想

この高嶺氏の作品は、作品の内側に入り、中から鑑賞することもできるようになっており、中に入ると次のような光景が広がります。

「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展 帰国展」高嶺格氏の作品画像1

この光景を見て私が直感的に連想したのは、アフリカからアメリカへと強制的に連行されて来た奴隷の人々が乗船していた、いわゆる奴隷船の内部です。

もちろん難民・移民の方の航行と奴隷貿易とでは、文脈がまるで異なります。
しかし粗末な作りの船内に、定員を遥かに超えた人数が無理やり乗船しているという点は共通しています。
目的はまるで違えど過酷な環境という点は一致しており、それゆえ作品を一目見て奴隷船の内部が連想されたものと想定されます。

「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展 帰国展」高嶺格氏の作品画像2

人間の身長より高くびっしりと並べられたTシャツからは、それが無機物でありながら衣服であることから、それを身につけた人間の存在を否応なく連想させ、それゆえ威圧感のみならず息苦しさまでもが感じられますが、これは無自覚にこの船に乗船していた人の立場に身を置いた結果生じた反応と考えらえます。

またそれゆえ高嶺氏の「移動する人々の存在と彼らの経験を想像させる」意図は十分に達成されていると言えるでしょう。

このような体験が生じたのも、コンセプトのみならず、そのコンセプトを具現化した作品から感じられるメッセージが、とても解りやすいものだったからと考えれます。

なお私は、この解りやすさというものを、鑑賞体験においてとても重要な要素と考えており、その理由を次回以降記事にしたいと考えております。

「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展 帰国展」展示詳細
(展示は既に終了しています)

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