先日、所属のART TRACE GALLERYで、諸岡亜侑未「Dig up and Build」のオープニング・パフォーマンスを拝見しました。1ページ目はその感想です。
パフォーマンスの内容は、ユング心理学で治療に用いられている箱庭療法をモチーフとしたものでしたが、通常の箱庭療法とはかなり趣きの異なる、なおかつ心理職に従事する私にとって驚くべき発想でした。
プロセス1〜彫刻の中から箱庭で使うアイテムを掘り出す
パフォーマンスはまず下の写真のように、中央に配置された真ん中をくり抜かれた大理石の彫刻の中から、箱庭で使用する砂を黄色いスコップですくい上げると同時に、その中に埋れた人形などのアイテムを掘り出す作業から始められました。
そしてこの作業から、私はとっさに精神分析のプロセスを連想しました。
なぜなら古典派と呼ばれるフロイトのオリジナルに近い精神分析学派では、症状を作り出していると想定される抑圧された記憶が無意識の層に埋まっており、それを掘り起こして意識化するのが治療の根幹と考えられていたためです。
(このため古典的な精神分析学派の理念は、考古学モデルと言われることがあります)
このため今回のパフォーマンスは、ユング心理学の箱庭という技法に、精神分析の考古学的な作用機序の想定が巧みに組み合わされた優れた表現に感じられ、これは仕事上はもちろんのこと、作家としても思いつかないアイディアで驚きでした。
プロセス2〜掘り出した砂と人形などを用いて箱庭を完成
続いてプロセス1で大理石の彫刻の穴の中に埋れた人形などをすべて掘り出し終えると、今度は四隅に設置された棚の中に砂を敷きつめて行きました。
その際、少し分かりづらいかもしれませんが、次の写真のように砂の形を整える作業に多くの時間を使っていたのが印象的でした。
そして砂を整えつつ、一緒に掘り出した人形などのアイテムをそれぞれの棚に配置して、箱庭が完成しました。
この時も、箱庭を1つずつ完成させていくのではなく、4つの棚を遠目から俯瞰しながら全体を少しずつ整えていったのが印象的でした。
以上のように、プロセス2については一度に4つ作成する点を除けば、おおむね箱庭療法の典型的な流れに沿ったものでしたが、前述のようにプロセス1は予想だにしなかった展開だったため、出だしに非常に強いインパクトを感じたパフォーマンスでした。
なお会期中は、今回のパフォーマンスの記録映像がプロジェクターで流されていますので、展示にお越しの際は箱庭作品と共にお楽しみください。
また小展示室には、来場者の方に箱庭作りを体験していただけるコーナーを設置しておりますので、お時間がございましたら、こちらもぜひお試しください。
展示は3月22日(日)までで、木曜日がお休みです。
補足) その後に作成した展示の感想記事は、今回のパフォーマンスの記録映像を後日拝見した際のプレゼンスと不在の感覚について考察することが主眼となってしまったため、別ページの扱いにしました。
よろしければ併せてご覧ください。
作家が写された映像がもたらすプレゼンスと不在の感覚〜諸岡亜侑未「Dig up and Build」を例に
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