要約:ART TRACE GALLERY「Crash of Temporalities」で、写真作品と映像作品を同時に拝見した際に感じた、写真に対する心理的な近寄り難い感覚から、写真は収められたイメージによる、作品との心理的な距離感の振れ幅が非常に大きいメディアのように思える。
印象に残った作品
先々週、今週と2回にわたって当番時にART TRACE GALLERY「Crash of Temporalities」を拝見した。
ギャラリーメンバーの高田慶実氏が企画した、各展示作家のパンデミックの体験に基づくグループ展である。
特に印象に残った作品は、映像作品の中のBack and Forth Collective [Mei Homma, Natsumi Sakamoto, Asako Taki]+Dr. Jen Clarke, Fionn Duffy and Sarah McWhinneyの、赤ちゃんの成長や感染症から守るために母乳に備わった驚くべき調整機能を紹介した作品と、SENA BAŞÖZ氏の、女性の髪をすくと中から色々なものが次々と出てくる映像だった。
写真作品から感じられた、鑑賞者を寄せつけないような雰囲気
ただ今回もっとも私の関心を惹いたのは、写真と映像という異なるメディアが有する、鑑賞者が感じとる心理的な距離感の差である。
今回の展示の大展示室では、上の写真のように映像作品と写真作品が併設されていたが、映像作品をしばらく見た後に写真作品を見ると、あくまで映像作品と比較した場合であるが、何か鑑賞者を寄せつけないような雰囲気を感じた。
つまり写真作品と対峙した際に、映像作品ほどには感情移入や、あるいはイメージの身体全体での体感と言ったものが難しかったのである。
写真は作品との心理的な距離感の振れ幅が大きいメディアなのか
しかし写真作品に対するこのような心理的な近寄り難さは、これまであまり感じたことはなく、むしろポートレイトや報道写真では琴線に触れる体験をしたことさえある。
したがって今回の展示で感じた心理的な近寄り難さは、写真というメディアに本質的に備わった属性とは思えない。
以上の考察から、写真というメディアは同じ写実性が高い映像と比較して、収められたイメージによる心理的な距離感の振れ幅が非常に大きいメディアではないかと考えられる。
展示は明日6月27日(日)の19時まで。