作品制作のためのスキルは特に書かれていない
本書のタイトル『学校では教えてくれないアーティストのなり方』を聞いて想像する内容は(私もそうでしたが)恐らくこれからアーティストになることを目指す人のために、美大の授業では学べないマル秘情報や、あるいは美大進学とは異なるアーティストへの道を示したものであり、そこには作品制作のためのスキルなども含まれていることを期待されるのではないかと考えられます。
ところが本書には制作のスキルについては特に書かれていません。
ただしこれは、いたみ氏の考えを反映したものと考えられます。
本書によれば、いたみ氏はアートにもっとも必要なものは表現欲求であり、それさえあればテクニックなどは独学でも習得可能であると考えていらっしゃるようです。
なぜならモチベーションの高い人は、自ら貪欲に分からなことを調べて、知識やスキルを努力を惜しまず身につけていくためです。
このため承認欲求やステータスなどを求めて、それを得るために他者のニーズに基づき作品を制作するような人が批判されてもいます。
いたみ氏にとってアートとは自己実現欲求に基づく自由な生き方
またそのことと関連して言えば、本の帯に「自分を表現して自由にくらす。」と書かれているように、いたみ氏にとってアートとは、アート作品を指すのではなく、自己の欲求を実現しながら飯を食える環境を整えるような生き方を意味し、それを自由という言葉に集約させています。
その意味でアーティストとは、自己実現欲求に基づく自由な生き方をしている人ということになるかと思います。
またしたがって自己実現欲求に基づき人生を歩んでいけるのであれば、極論すればその手段は別にアート作品の制作である必要はないことにもなるのではないかと考えられます。
ケーススタディとしてアート作品のギャラリーの効果的な売り込み方を記載
とは言え、そのような環境を整えるためには、実際は自分の生き方が世の中で価値あるものと認められ、その価値に対する対価を支払ってもらえなければ生活していけません。
ですからそのケーススタディとして、アート作品を制作し、それが主にアメリカのギャラリーで扱ってもらえるようにするための効果的な戦略を綴っているのが本書の内容ではないかと考えられます。
なおその場所がターゲット層の住む日本ではなくアメリカであるのは、ご承知のように日本のアート市場の規模があまりに小さいためです。
本書によれば、世界のアート作品の売買額の7割をアメリカと中国が占め、日本は1%程度だそうです。
日本のアーティストを目指す人の大半のニーズは作品制作のスキル
しかし日本のアーティストを目指している人の中で、いたみ氏と同じような考えを持つ人は決して多くないように思えます。
(私もその一人ですが)大半の人は、もちろん表現欲求はそれなりにあるとしても、求めているのはアート作品を制作し、その作品の価値が周囲の人も含めて世の中で認められることを欲し、しかしそれは必ずしもフルタイムアーティストになることを意味しているわけではないと考えられるためです。
(ただし私はフルタイムアーティストの野望を捨て去ったわけではありません)
またそのための制作スキルを学ぶために、美大や専門学校、ワークショップなどに足を運んでいるのではないかと考えられます。
補足)ただし最近は、制作欲求さえ希薄な人が美大へ進学するケースも珍しくないそうで、私自身も通信制の美大に入学し、その現実を目の当たりにして驚きました。
これらのことが前のページの最後で「このタイトルと装丁では本書が役立つ人の興味を喚起しづらい」と書いた理由です。
なぜなら本書が一番役立つのは、私のように既に展示活動を行なっており、なおかつ願わくばフルタイムアーティストになりたいと思っている人であり、その夢を実現するための魅力的な地の1つであるアメリカで活動するためのノウハウが本書には詰まっていると考えられるためです。
紹介文献
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