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佐野光子 個展「EXOTICA」~現代社会の負の側面を取り上げた優れた「世界の表現」

昨日、馬喰町のRoonee 247 fine artsで開催中の、佐野光子 個展「EXOTICA」を見て来ました。
私も編入学時には在籍していた、京都造形芸術大学の写真コースを卒業された方の写真展です。

人種のステレオタイプ・イメージが有する暴力性を表象

佐野光子 個展「EXOTICA」展示風景

こちらが展示作品の一部で(クリックで拡大)、ステートメントにも書かれているように、佐野さん自身がステレオタイプな人物像に扮したセルフポートレート作品です。

とは言え、ここに写っている人物のイメージは、インターネットが普及し情報のグローバル化が進展した現在においては、時代錯誤と感じられるほど、あまりに極端なステレオタイプ・イメージですが、これは同じくステートメントにあるように、佐野さんが子供の頃に見て違和感を感じた、昔のハリウッド映画などに登場する異国人の姿をそのまま踏襲しているためと考えられます。

そしてこうした作品を通して佐野さんは、これもステートメントの言葉を一部援用すれば、ステレオタイプなイメージが個々人のユニークさやアイデンティティなどをすべて拭い去ってしまうほどの暴力性を有していることを指摘し、それゆえに「ステレオタイプ・イメージと生身の身体とのせめぎ合いから生まれる不協和音によってエキゾチシズムを無効化し、リアルな他者の姿を浮かび上がらせる」必要があると考えていらっしゃるようです。

表出される文脈によっては差別的と非難を浴びる可能性がある作品

もっともその希望も、文脈が違えば、まったく異なる受け止め方をされる可能性があるように思えます。

恐らくこうしてギャラリーにアート作品として展示され、それをご覧になるお客様の多くは、佐野さんを意図を理解し、その枠組みに基づき作品を評価してくださるでしょう。

しかし例えば、そのお客様が撮影された画像がSNSに出回るなどした際には、佐野さんも危惧されていらっしゃるように、作家の意図などにお構いなく画像のみが、それも反射的に評価され、その結果作品がパロディのように受け止められ、それを面白がる人や、あるいは著しく差別的な作品であるとして厳しい批判を浴びせる人が続出するかもしれません。

特に脱物語を指向し、テキストは不要とばかりに画像や動画の表示に重点を置いたInstagramにおいては、そのリスクが飛躍的に高まることでしょう。

現代社会の負の側面を取り上げた優れた「世界の表現」

その意味で、こうしたリスクを承知を上で制作活動を続ける佐野さんの姿勢は、極めて尊敬に値するのです。

と同時に、前回のミホリトモヒサさんの展示の感想でも参照した、放送大学教授の青山昌文さんの考えを援用すれば、佐野さんの試みは現代社会の負の側面を取り上げた優れた「世界の表現」であり、かつその信念には精神的な領域における「美」が宿っており、それゆえ美学の考察の対象ともなり得るのです。

展示は5月26日(日)の16時までです。

Roonee 247 佐野光子 個展「EXOTICA」

参考文献

青山昌文著『美学・芸術学研究 (放送大学大学院教材)』、放送大学教育振興会、2013年

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