要約:「7日間ブックカバーチャレンジ」の4冊目は譲原晶子著『踊る身体のディスクール』。中世から現代に至るバレエの変遷が事細かに検討されていますが、中でもダンサー個人にほとんど焦点が当てられることのない中世の古典バレエの世界は驚きでした。
読書文化の普及への貢献を意図した7days Book Cover Challenge、4日目に紹介する図書は譲原晶子著『踊る身体のディスクール』です。
目次:
『踊る身体のディスクール』の概要
中世の頃のバレエは、舞台を観客席が取り囲む形で鑑賞していた
中世の時代はスターダンサーは存在しなかった
時代精神の影響を受けてバレエも変化してきた
『踊る身体のディスクール』の概要
『踊る身体のディスクール』では感性よりもコンセプト、つまり感覚的な要素よりも理論、したがって思考の働きを重視しています。
加えて大半が身体表現の中でもバレエの記述に充てられています。
そしてこの信念の元に、第1章で舞踊の本質な事柄を考察した後の第2章以降では、用語やステップを通じて、中世から現代に至るバレエの変遷が事細かに綴られると同時に、緻密な検討が加えられています。
中世の頃のバレエは、舞台を観客席が取り囲む形で鑑賞していた
正直素人の私は、バレエ用語やステップの説明を読んでもチンプンカンプンで、その部分はかなり読み飛ばしてしまいましたが、それでも中世から近代へと至るバレエの変遷は非常に興味深いものでした。
例えば古典バレエと称される中世の頃のバレエでは、今日の大規模なコンサートなどで見られるように、会場の中央に舞台が設けられ、その周囲を観客席が取り囲む形で鑑賞していたようです。
これは「踊りがダンス・フロアで踊られ、観客はそれを囲んで座していた時代の名残り」と考えられています。
中世の時代はスターダンサーは存在しなかった
またこうした中世のバレエの鑑賞スタイルで重視されていたのは、ダンサーの踊りそのものではなく、ダンサーの移動によって生まれる軌跡でした。
このことは当時のバレエの魅力が、ダンサーの踊りの造形的な要素や超人的な跳躍力などではなく、ダンサーの移動によってフロアに描かれる軌跡の美しさなどにあったことを示していると考えられます。
したがって当時はまだスター扱いされるようなダンサーは存在せず、非常に没個性的な存在であったことが窺えます。
時代精神の影響を受けてバレエも変化してきた
ちなみに社会学その他の人文科学の知見によれば、現代に生きる私たちにとっては当たり前の「私」という「個」の感覚や、その私個人の価値へのこだわりが大多数の人の心に芽生えるようになったのは、西洋社会では自然科学の発達に伴いキリスト教の影響力が大きく衰退した近代になってからであると考えられています。
この精神構造の変化が、前述のバレエの世界において重点が「身体の移動」から「身体の造形」へと移り変わっていた時期とおおむね一致しているため、このバレエにおける重点の変化は恐らく時代精神の影響を受けてのものではないかと考えられます。
今後も折にふれて『踊る身体のディスクール』の興味深い記述を紹介していく予定です。