「HB FILE COMPETITION vol.35 特別賞5人によるグループ展」の感想記事。fechukelさん、神谷洸平さんの次は安藤とわさんです。
安藤とわさんの作品感想
ショーウィンドウの華やかさが感じられない不思議な作品…
安藤とわさんの作品の中で特に目を引いたのが、こちらの作品です。
お店のショーウィンドウを描いた作品ですが、通常このモチーフに惹かれるのは、華やかさやレトロな雰囲気など、何らかの形で心が動かされることが多いと思われますが、安藤さんのこの作品からは、そうした要素はほとんど感じられません。
しかも手前には、ショーウィンドウの華やかな雰囲気を壊しかねない、工事の衝立のようなものや台車などが、とてもリアルに描かれています。
この点を伝えたところ、人の気配があまり感じられず、かつ作品との間に距離(の遠さ)を感じるような作品作りを目指していることが分かりました。
コロナ禍の人がいなくなった都会の写真を連想するような世界観
そう言われて他の作品にも目を向けると、確かに人がまったく描かれておらず、コロナ禍の人がいなくなった都会の写真を見ているような感覚に襲われてきます…
※人の登場しない一連の作品はFaceless Landscapeと名づけられています。
作品との距離感を保つために望遠レンズを使用
この安藤さんの作品制作のスタンスは徹底していて、下絵となるモチーフを撮影する際も、被写体との距離を確保するために、必ず望遠レンズを使用しているそうです。
また望遠レンズを使用すると遠近感が圧縮されますが、それによる現実感覚の消失も意図しているとのことでした。
※話を伺っていると、カメラや写真の原理を、とてもよく理解されている方のようでした。
音の存在しない、すべてが凍結された世界…
最後に過去作のファイルを拝見させていただきましたが、そこにはモノクロームで表現された夜の雪景色などがありました。
ただ、その夜の雪景色からは、私が道産子で実体験があるからかもしれませんが、ある種の情緒が感じられました。
このように安藤さんの、作品からの人の気配の排除や、鑑賞者の作品への没入感を阻む試みはより徹底され、今では音の存在しない、時間を含めたすべてが凍結された世界を見ているような作品に仕上がっています。
しかしそれでも美しさを感じずには置けない…それが安藤さんの作家としての個性なのだと思います。
次のページにはナカガワコウタさんと植田陽貴さんの作品感想を掲載する予定です。