先週の土曜日に「HB WORK Competition vol.5 受賞者12人によるグループ展」を見てきました。
HBギャラリー主催のコンペの受賞者によるグループ展とのことです。
この日は受賞者のうちイワクチコトハさん、真悠子さん、辻本大樹さんが在廊されていて、作品の説明を受けながら鑑賞することができました。
イワクチコトハさんの作品感想
まずイワクチコトハさんの作品ですが、写真の作品が一番印象に残りました。
もしかしたら以前に住んでいたマンションのすぐ近くに、とてもよく似たアパートがあったことが思い出されたためかもしれません。
フォトペインティング
参考までに、写真を見ながら描いているのか尋ねると、最初に写真をトレースし、その後に加筆していくとのことでした。
写真のトレースといえば、ゲルハルト・リヒターのフォトペインティングが知られていますが、リヒターの作品からは、どこか冷めた感じが伝わってくるのに対して、イワクチさんの作品にはもっと情緒が感じられます。
両者の違いを紐解く鍵として、以下のようなことが考えられます。
「技法が主題」と「モチーフが主題」との違い
フォトペインティングという同じ手法を用いながら、リヒターが「モチーフの選択基準や意味はない」と公言しているのに対して、イワクチさんはSNSで「写実性と自分のイメージを重ね合わせた作品を制作」と表明しています。
私見ですが、リヒターがフォトペインティングという技法自体を作品コンセプトの中で重要視しているのに対して、イワクチさんの場合、フォトペインティングはあくまで作品の写実性を高めるための手段であり、それよりも写実性を高める対象であるモチーフの方が、遥かに重要度が高いのではないかと考えられます。
作品と作家との距離感の違い(投影の程度の違い)
さらに(作品に)自分のイメージを重ね合わせるという点においても、両者は対照的であるように思えます。
イワクチさんが作品に自分のイメージを重ね合わせる、つまり作品に自身(の心)を積極的に投影させようと試みるのに対して、リヒターの「モチーフの選択基準や意味はない」との発言からは、モチーフを選択する作家の心にはあまり価値を置かず、もしろできるだけその影響を作品から排除したいとの意思すら感じられます*。
*この点はリヒターが「絵画における主観的判断を極力排除するために、写真の客観性を用いた」ことからも窺えます。
以上のように、作品における主題がモチーフなのか技法なのか、また作品と作家との距離感(投影の度合い)などが両者の作品から受ける印象の顕著な違いを生み出しているのではないかと考えられます。
参考サイト
イワクチコトハ | Kotoha Iwakuchi Instagramアカウント
東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」より 写真と絵画、どちらが客観か主観か | IMA ONLINE
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