ART TRACE GALLERY「風の振る舞い」の感想記事。
1ページ目では入り口付近に設置してあるステートメントについて触れました。
続くこのページでは、作品に関する感想を記します。
2ページ目目次:
展示風景
そよ風の心地よいリズムが感じられる上田和彦さんの作品
大地の力強さが感じられる民佐穂さんの絵画作品
風化の作用や歴史の蓄積までもが感じられる向井哲さんの立体作品
展示風景
今回の展示「風の振る舞い」では、入り口付近のステートメントの右側に上田和彦さんのドローイング作品、さらに右側に向井哲さんの立体作品が展示されています。
続いてさらに右に視線を移すと、正面の壁に上田さんの絵画作品、その右側の壁には民佐穂さんの絵画作品、そしてスペースの中央にも民さんの立体作品が設置されていました。
そよ風の心地よいリズムが感じられる上田和彦さんの作品
それぞれの作品からは三者三様の形で風の心地よさが感じられました。
まず上田さんの作品からは、カンディンスキーのコンポジション・シリーズにも通じるリズム感が感じられました。
そう思うと、それぞれのストロークが音符のおたまじゃくしのようにも見えてきます。
参考までに、こちらがカンディンスキーの代表作の1つの《コンポジションⅧ》です↓
ですが今こうしてみるとけっこう硬質な印象を受け、同じリズムでも上田さんの作品の方が、そよ風のような優しい心地が感じられます。
大地の力強さが感じられる民佐穂さんの絵画作品
続いて民さんの絵画作品からは、その力強いストロークやメリハリの効いた色調などから、山や川など大地の力強さが感じられました。
なおここでの力強さとは、直接的には自分がちっぽけな存在に思えてくるほどの広大な景観に圧倒される畏敬の念にも似た感覚なのでしょうが、より深層のレベルでは、1ページ目のステートメントの感想でも触れた、ドリーミングと呼ばれる物理的には破壊されてもなお存在し続ける普遍的な力の働きなのかもしれません。
風化の作用や歴史の蓄積までもが感じられる向井哲さんの立体作品
そして今回特に印象に残ったのが、向井哲さんの粘土で作られた立体作品でした。
向井さんの作品からは、風化と呼ばれる岩石が長いあいだ空気にさらされて崩れ、やがて土に還る現象の働きまでもが感じられたため、この今という瞬間が過去から連なる膨大な時間の連続の中に組み入れられたものであり、そして自分もその一部であることを実感しました。
また余談ですが、この無造作に切り取られたような形の粘土からは、今年の2月にKENJI TAKI GALLERYで拝見したヴォルフガング・ライプの写真作品に収められた、南アジアのどこか神秘的な風景が連想されました。
こちらがその作品です↓
補足) 中央に見える赤い部分は、恥ずかしながら車のランプが映り込んでしまったものです…
両者の造形からはlingam(リンガ)を連想しました。
リンガとは、サンスクリット語で破壊と創造を繰り返すヒンドゥー教のシバ神の象徴として、男性器をかたどったもののことを指します。
(より一般的なファロスと呼ばれる概念と、基本的な特質は同じと考えられます)
この象徴の意味合いからも、向井さんの作品から感じられた風化という作用は、いずれ生じる(アーティストの職能でもある)創造に欠かせないプロセスのようにも思えました。
展示は明日10月20日(火)の19時までです。
もしお時間がございましたら、ぜひ両国のART TRACE GALLERYまで足をお運びください。
追伸) 3ページ目に小展示室のリサーチの感想を掲載しました。