私説:日本で作品は売れなくても写真集は良く売れるのは、絵柄を買っているからでは

前回の記事「私説:アウラと関連づけられるのは芸術作品の礼拝価値ではなく展示価値の方であり、複製技術の進展とも相関性の低い概念」で引用したベンヤミンの『複製技術時代の芸術作品』の中に、もう1つ次のような興味深い記述があります。

20世紀前半までは斬新な技術として持て囃された写真の複製技術

対象をごく近くに像(Bild〔絵画や直接イメージ〕)で、いやむしろ模像(Abbild〔写像〕)で、複製で、所有したいという欲求は、日ごとに抗い難く妥当性を持ってきつつある。(『ベンヤミン・コレクション』P.593)

これは当時の大衆の欲求について述べたものですが、最初に読んだ時には「何でわざわざ複製を」と疑問に思いました。
ですが当時は本物そっくり*に複製可能な写真というメディア自体が非常に斬新な技術として持て囃されていたことを考えると納得できます。

*あくまで当時の人々にとっての話です。

日本ではオリジナルプリントは売れなくても写真集はけっこう売れている

前述の話は20世紀前半のものですが、このベンヤミンの指摘と似たようなことが、日本では今でも生じています。
それは著名な写真家の作品であっても作品(オリジナルプリント)はなかなか売れず、しかし写真集はけっこう売れるという現象です。

またこの現象は一過性のものではないためか、ジュンク堂のような大型書店でも、写真を含むアートの理論書のコーナーは縮小傾向にあるに対して、写真集のコーナーはどんどん広くなっています。

ですが精巧な印刷物は最早ありふれた存在となっていますので、日本で写真集がよく売れる要因はベンヤミンの指摘とは別にありそうです。

私説:写真集を買う人は作品の絵柄を買っている

あくまで私見ですが、日本で写真集を買われる方の多くは、コレクターをはじめとしたアートワールドの人々ほどにはプリントのクオリティに関心がなく、そのため沢山の作品が収められた写真集の方が断然お得に感じられるのではないかと考えられます。
極論すれば作品の絵柄を買っているということです。

印刷技術の高さが写真集の売り上げを後押ししている

また日本でこうした現象が生じているのには、日本の印刷技術の高さが貢献しているように思えます。
日本は欧米諸国と比べても、用紙も含めて平均的にクオリティが高いと聞きますので。

以上のような日本の事情は、要因は違えども、結果的にベンヤミンが『複製技術時代の芸術作品』の中で予測した、複製品がオリジナルの作品を駆逐するという事態になっていると考えられます。

次のページでは、これまで述べてきたことは特に写真において顕著であるように思えますので、その個別的な要因を探っていきます。

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