私説:アートは世界共通言語などではない。言語の壁は予想以上に厚い

今回の記事は「いたみありさ著『学校では教えてくれないアーティストのなり方』〜海外で活動するためのノウハウを分かりやすく紹介」「私説:アーティストバイオグラフィーはセルフブランディングに欠かせないアーティストとしてのアイデンティティの表明」の補足的な内容です。

2つの記事で取り上げた『学校では教えてくれないアーティストのなり方』の中で、著者のいたみ氏は英語で情報を発信することの重要性を力説されていますが、以前にそのことを実感する出来事がありました。

「アートは世界共通言語」旨のキャッチコピー

紙面やネット上でアートに関する記事を読んでいると、しばしば「アートは世界共通言語」旨のキャッチコピーを目にします。
このコピーが意図するところは、アート作品はビジュアル要素で構成されているため、言語など介さずとも、その価値を分かり合えると言うような意味合いです。

もしこれが事実なら、苦労して英語などの外国語を習得しなくても、作品の画像がアクセス数の多いサイトなどで公開されさえすれば、世界中のアート関係者に作品を見てもらえたり、さらには展示その他の契約に結びつく可能性が出てきそうです。
ところが昨年、決してそうではないことを思い知らされる出来事がありました。

日本語が分からないと言う理由で、これまで日本の写真家にほとんど関心を払って来なかった人の存在

私は昨年よりEINSTEIN STUDIOを通じて海外のアートフェアなどに参加していますが、そのEINSTEIN STUDIOのサイトにゲストのみが閲覧可能がページがあり、海外のアート関係者からEINSTEIN STUDIOに寄せられたメッセージが掲載されています。
その中にシンガポールのアート関係者の次のようなメッセージが掲載されていました。

私は日本語が分からないため、これまで日本の写真家のことをほとんど知らなかった。
しかしEINSTEIN STUDIOのカタログはすべて英語で記載されているため有難い。
これからもEINSTEIN STUDIOのカタログを通じて日本の写真家に注目していきたい。

たとえ日本語が分からなくても、日本の写真関係のサイトを見れば、すぐに数多くの作品を見ることができるはずです。
ところがこの方は日本語が分からないと言う理由で、これまで日本の写真家にほとんど関心を払って来なかったようです。

言語抜きに正確なコミュニケーションを取ることはできない

確かに言葉など分からなくても、作品のビジュアルから何かを感じることは可能です。
しかし仮に、そうしてとても気に入った作品に巡り会えたとしても、コンタクトを取ろうとすれば、その時点で言語に頼らざるを得なくなってしまいます。
このため、その段階で苦労を強いられるくらいなら、最初からスムーズにコミュニケーションを図れる人を重点的にリサーチすることが選択されても不思議はありません。
なぜならリサーチに当たられる時間は限られているためです。

コンセプト重視の人には最初からスルーされてしまう

またこれもEINSTEIN STUDIOを通じて知ったことですが、海外の多くの国ではコンセプトも非常に重視され、中にはコンセプトの強さを基準に購入する作品を決定する著名なコレクターも存在するそうです。
この場合、情報が日本語のみで書かれている時点でスルーされてしまうことになるでしょう。

自分の作品が誰かの目に触れ、何かを感じてくれることを想定するなら「アートは世界共通言語」という考えは妥当なものでしょう。
しかし作品の購入や展示の依頼などそれ以上のものを求めるアーティストにとって、この耳触りの良いフレーズの上にあぐらをかくような態度は、恐らく賢明とは言えないでしょう。

参考文献

いたみありさ著『学校では教えてくれないアーティストのなり方』、サンクチュアリ出版、2014年

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