パフォーマンス研究のキーワード – パフォーマンスの概念を拡張し問題意識を高める良書

高橋雄一郎、鈴木健編『パフォーマンス研究のキーワード – 批判的カルチュラル・スタディーズ入門』
昨年末に葬儀の写真を投稿した祖母の四十九日が今週行われ、その帰省の道中から読み始めている本です。

「パフォーマンス研究」は前衛演劇家により生み出された

パフォーマンス研究と聞くと、パフォーマンス・アートやパフォーミング・アーツなどの研究を連想される方もいらっしゃるかと思いますが、実際の研究領域はサブタイトルに批判的カルチュラル・スタディーズ入門とあるように、むしろ文化人類学社会学に近い内容でした。

もっとも演劇科を改組する形で世界で初めてパフォーマンス研究学科を創設したニューヨーク大学大学院の演劇科教授のリチャード・シェクナーが、元々前衛演劇集団「パフォーマンス・グループ」を率いていた事情もあってか、演劇と文化人類学との学際的な研究をスタートとし、したがって同書でもそれに関する考察が丸々1章分割かれています。

パフォーマンス研究における「パフォーマンス」の定義

同書で解説されている「パフォーマンス研究」の特徴の1つは、パフォーマンスの概念を大幅に拡張していることです。
その範囲はアートの領域に加え、個人のあらゆる行為や、そのコミュニケーションから生まれる文化などの集合的な作用にまで及びます。
したがって同研究では、事実上人間の営みのすべてをパフォーマンスと定義し考察対象としていることになります。

人間の営みすべてをパフォーマンスとみなすことで問題意識を高める

このように人間の営みすべてをパフォーマンスとみなすことのメリットは、私の理解では問題意識その他のアウェアネス(気づき)の増大です。
詳しくはこれから追々、このサイトやカウンセリングのサイトで紹介して行く予定ですが、コミュニケーション1つとっても、当事者の行為の影響を心理職の私がハッとさせられるほどに、非常に丁寧に分析しています。

カウンターカルチャーの影響を受けて、権力の作用を極力排除する態度を貫く

特にこの研究領域がカウンターカルチャーの時代精神の中で生まれたことも影響してか、コミュニケーション分析においては権力の作用に力点が置かれ、その影響を極力排除する態度が貫かれています。

このような権力の作用の自覚は、私の仕事の領域である心理職においても未だ不十分ですが、アート業界においては作品のテーマとして考察される以外にはほとんど意識されておらず、したがって世間一般ではセクハラやパワハラとみなされることが許容範囲とみなされ横行しているとの印象を受けます。

詳しくは「アート写真における写真家と作品モデルとの権力構造についての考察」の3ページ目以降に記載したいと考えていますが、私の個人的な印象ではアート業界、特にアート写真業界における人権意識は、ガバナンスがある程度機能している大学等の一歩外へ出ると、まるで昭和の時代で止まってしまっているかのようです。

話を業界批判から戻すと、この他にも同書には、身体・展示・ジェンダーなどについてもそれぞれ1章を割いて考察が行われています。
パフォーマンス研究の信念は、恐らくリベラルな思想をお持ちの方と親和性が高いと考えられますので、その思想をさらに深化させる1冊としてご一読をお勧め致します。

最後に余談です。私は専門書に関しては思い浮かんだ連想を書き込みながら読み進めますが、本書ほどその書き込みで埋め尽くされた本はありませんでした。
これは今ちょうど「校則破り」という展示の企画を立案中で、その企画が批判精神でもって常識を疑うことをポリシーとしているため、ちょうど波長があったからではないかと考えられます。

紹介文献

高橋雄一郎、鈴木健 編『パフォーマンス研究のキーワード―批判的カルチュラル・スタディーズ入門』、世界思想社、2011年

広告
最新情報をチェック!