小崎哲哉著『現代アートとは何か』〜「西洋的芸術概念とその解体 ——— 現代アート世界の観察報告」の多くの内容を網羅した実用本

今回は今読んでいる小崎哲哉著『現代アートとは何か』の紹介記事です。
昨年の3月の発売後、ほぼ毎月増刷されているベストセラーです。

諸外国のアート事情の最新報告

『現代アートとは何か』というタイトルからは、普段あまりアートに馴染みのない一般の方向けに、難解な印象の強い現代アートを分かりやすく解説するというような内容を連想します。

しかし実際の内容は、本の帯にも示されているように、日本にいるとなかなか伝わって来ない諸外国のアート事情の最新報告です。
またその観察対象も欧米のみならず、アジアや中東、アフリカなどもカバーしています。

ウルリッヒ氏の講義「西洋的芸術概念とその解体 ——— 現代アート世界の観察報告」の多くの内容を網羅

『現代アートとは何か』を読みながら特に感じたことは、「西洋的芸術概念とその解体 ——— 現代アート世界の観察報告」講義メモの内容の大部分を網羅している点です。
具体的には、次のような内容が上述のウルリッヒ氏の講義内容とリンクしていました。

・アートバーゼルやヴェネツィア・ビエンナーレを頂点とする、今やセレブリティのためのアートと言える世界
・それと一線を画するドクメンタなどの芸術祭と、そのキュレーターの姿勢
・美術史を参照しないアーティストなどの台頭

このためウルリッヒ氏の現代アート報告の講義メモに興味を持たれた方に、特にオススメしたい一冊です。

ゴシップ的な内容が多いが、それが現代アートの実情

なお最初の2章「マーケット」「ミュージアム」では、ゴシップに近い話が続くため、アートに崇高さを求めるような方は、読んでいて辟易するかもしれません。
しかしそうした富裕層の多分にエゴイスティックな行為が、アート市場を牽引している実情を含めての、現代アート世界の率直な観察報告なのだと受け止める必要があるのではないでしょうか。

ポリティカル・コネクトネス(政治的な正しさ)を求める風潮は網羅されていない

ただしウルリッヒ氏の現代アート報告の講義で大きな比重を占めていた、アート作品にもポリティカル・コネクトネス(政治的な正しさ)を求める風潮は、ほとんど網羅されていません。
このため、この分野に関しては別途、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの書籍などで補う必要があるように思えます。

紹介文献

小崎哲哉著『現代アートとは何か』、河出書房新社、2018年

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