Up & Coming『生活と美術』感想

長嶋由季個展『Our voice becomes their song(私たちの声は、やがて彼らの歌になる)』斉藤真起個展『雨沛下 あまはいくだる』を見た後、この日はさらにギャラリーハウスMAYAへ向かいましたが、その途中でUp & Comingというギャラリーを見つけ立ち寄りました。

Up & Comingとは

スタッフの方の話では、Up & Comingとは、以前に3331 Arts Chiyodaの中にあったアキバタマビ21が移転してきたギャラリーとのことでした。
新しいスペースは2フロアに分かれていて、後述の『生活と美術』展が、それぞれ異なる展示スタイルで構成されていました。

なお3331 Arts Chiyodaは現在改装中で、今後の利用の仕方についてはまだ未定のようです。

『生活と美術』展感想

『生活と美術』展のコンセプトと展示構成

今回の『生活と美術』展では、作品と生活の関係性に焦点が当てられ、展示の構成としては、1Fに作品が完売して展示台のみが残された状態を、2Fにはその購入された作品が購入者の部屋に飾られた状態が提示されていました。
(写真は2Fの展示風景)

同じ作家でも「生活」の捉え方が大きく異なる

今回の『生活と美術』展でもっとも印象的だったのは、同じ作家でも「生活」という言葉から連想される事柄が大きく異なることでした。

私は展示タイトルにある「生活」の文字を見て、真っ先に作家の生活を連想しましたが、今回の展示では1Fと2Fとでそれぞれ次のような内容が想定されていました。

  • 1F: 作家の生活を作品の販売を通して経済的に支える、ギャラリーという場あるいは存在
  • 2F: 購入された作品が、どのような形で存在するにせよ、その購入者の生活に与える影響

以上のように私の連想が作家個人の日常生活全般を想定していたのに対して、今回の展示作家の皆様では、同じ言葉が作家活動のみの、しかも制作活動を除いた、作品の展示と販売、およびそれ以降のプロセスのみに焦点が当てられていました。

連想の違いを生んだ要因その1:作品販売への期待感

この生活という言葉の解釈の違いを生んだ要因の1つは、作品販売への期待感ではないかと考えられます。

以前の私は、海外のアートフェアに参加するなど、作品の販売に関してそれなりに意欲を持っていました。しかしアートフェアで複数点の作品が売れても収支は赤字でした。
こうした実情から、現在の私にはもうアートフェアに参加するような経済的な余裕はなく、また展示場所も所属のART TRACE GALLERYのみとなっております。
今の私にとって、作品の販売で生計を立てることは幻想に近い話です。

対して『生活と美術』展の参加作家の皆様は、おそらく現在の私などよりも作品の販売に関して遥かに大きな期待を抱いていらっしゃるのではないかと思われます。

連想の違いを生んだ要因その2:生活に占める作家活動の比重

解釈の違いを生んだ要因の2つめは、生活に占める作家活動の比重の違いです。

私の日常生活という連想は、おそらく多くの方が生活という言葉から思い浮かべることと思われます。
対して作品の販売という連想は、アート業界の人でないとまず出てこない発想のはずです。

ですから参加作家の皆様にとって作家活動とは、おそらく人生でもっとも重要な事柄であるのに対して、同じことが私にとっては数ある生活の一部分に過ぎないことを今回の連想は物語っているのではないかと考えられます。

『生活と美術』展は8月2日(土)まで開催されています。

「生活」からの連想:補足

記事をポストした後、私が「生活と美術」の「生活」に重点を置いて連想していたことに気づきました。
そこで改めて生活と美術という文言から連想を働かせてみました。

ただこの場合でも、私がコレクターのように作品を購入する立場ではなく、作家という作品を制作する側であるからでしょうか、生活と美術から連想された内容は、作家である私の生活と美術との関係性でした。
(もちろん展示を拝見する機会は多々ありますが、その際も購入を念頭に作品を拝見することは滅多にありません)

こうした連想内容の違いが生まれるのも、やはり日頃の展示の際の作品販売に対する温度差(意欲の差)ゆえのことではないと思われます。

今回『生活と美術』展を拝見して、現在の私は以前と比べて作品販売の熱量が下がっており、その結果購入された作品が購入者の部屋でどのように飾られるのかなどの、その後のプロセスを想像することすら少なくなっていることを実感しました。

Up & Coming『生活と美術』展 公式ページ

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