ディエゴ・クルス《イン・メモリアム》@「TERRESTRES:ラテンアメリカ・コンテンポラリーアートへの接点」の感想

Takaaki Kumagai氏キュレーション「TERRESTRES:ラテンアメリカ・コンテンポラリーアートへの接点」の感想記事その5。
バイロ・マルティネス氏に続いて紹介するのは、ディエゴ・クルス氏のパフォーマンス作品です。

ディエゴ・クルスのパフォーマンス作品《イン・メモリアム》の概要

こちらがクルス氏のパフォーマンス作品《イン・メモリアム》(Diego Cruz “In memoriam”)です(クリックで拡大)。

「亡き人のために」と訳される同作品は、日本では生春巻きの材料として知られるライスペーパーに、食品や化粧品などに使われるアチョテと呼ばれる赤い着色料で着色されています。

「TERRESTRES:ラテンアメリカ・コンテンポラリーアートへの接点」を初めて拝見したのは2日目のキュレータートークが行われる日でしたが、会場のART TRACE GALLERYへ到着すると、ちょうどキュレーターのKumagai氏により、この作品のパフォーマンスが行われていました。

同作品は、弁護士として多くの社会活動家や人権擁護団体のメンバーが殺害される惨状を目の当たりにして来たクルス氏の心情が反映されたもので、ライスペーパーには暗殺やテロリズムの犠牲となった140名の方々の名前が赤く記されています。
そしてこのライスペーパーは水で濡らして壁に貼り付けているだけのため、乾くと粘着力を失って床に置かれた水槽の中に落下し、やがては溶けてなくなるという仕掛けです。

死者の追悼と鎮魂の意思

この作品には恐らくクルス氏の弁護士としての社会正義の心情が込められているのでしょうが、それ以上にパフォーマンスが行われていた会場の厳かな雰囲気からは、死者に追悼の意を示し安らかに眠って欲しいと願う、鎮魂の意思が感じられました。

今回の「TERRESTRES:ラテンアメリカ・コンテンポラリーアートへの接点」は、総じて社会的なメッセージが感じられる作品が多い印象を受けましたが、クルス氏の作品には特にその点が強く感じられました。

個人的には、恐らくこの作品は出来上がったものを眺めるよりも、パフォーマンスの場でも行われていたように、鑑賞者自らが制作を体験することで、視覚のみならず体全体で上述の感覚を感じ取れるような体験型のアート作品でもあるように思えました。
つまりは一種の儀式として執り行われることで、より心情を追体験できる作品のように思えました。

またこの場合、作品の骨子は追体験を促す仕組みのデザインの方にあることになるのではないかと考えられます。

以上のような感想を抱くほど、パフォーマンスが行われていた会場の雰囲気は、特別なものに感じらました。

なおクルス氏はSIN|CENTROの共同設立者で、当初は来日の予定でしたが都合がつかず、そのためKumagai氏がパフォーマンスの代役を務めたそうです。

参考文献

「TERRESTRES:ラテンアメリカ・コンテンポラリーアートへの接点」展示カタログ

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