土屋祐子「マイオウンビーチ」感想 – ポートレイトの構図が生み出す不思議な雰囲気

要約:土屋祐子「マイオウンビーチ」では、ビーチをモチーフとした風景画でありながら、作品の大部分で縦位置の構図が採用されており、このポートレイトに典型的な構図が風景に生き物のような存在感を与え、その作用により不思議な雰囲気が醸し出されているのではないかと考えられる。

「不思議な雰囲気」のビーチの風景画

先日アートトレイスギャラリーの当番の際に、土屋祐子「マイオウンビーチ」を拝見した。

土屋氏はこれまで「Portraits」「beaches」「mountains」「skirts」という4つのシリーズの絵画作品を制作してきたが、今回は2つ目のビーチのシリーズを集めた展示だった。

今回の個展はけっこう反響が大きいようで、色々なところで感想を見聞きしたが、もっとも多いのが不思議な雰囲気を感じるというものだった。

私自身も確かに、ビーチの風景画でありながら、しかし何か風景画とは異なる雰囲気を感じずに置けなかった。今回はその要因を、風景写真の技法も援用しつつ探求してみたい。

風景画でも、ポートレイトの構図になっている

まず土屋氏のビーチの作品は、波の部分が盛り上げるように厚く塗られた白い絵の具が重みで垂れているような描き方がなされているため、この非写実的な技法が一種独特な雰囲気を醸し出していることは確かだろう。
(今回の展示の中では、次の2018年の作品にその特徴がもっとも強く出ていた)

しかしすべての作品を眺めると、横長のサイズの作品より縦長のサイズの作品の方に、より不思議な雰囲気を感じる。
それはおそらく風景をモチーフとしながら縦位置の構図である作品を、あまり見かけないからではないかと考えられる。

※参考までに横位置の構図の展示作品も掲載する。

こちらの方が馴染みの光景として、すんなり目に飛び込んで来るのではないだろうか。

私は絵画の理論は詳しくないので、この点を写真に置き換えて考えてみる。
風景写真は一般的には横位置で撮影されることが多く、これは画面に横の広がりが感じられて、自然が有するスケール感を表現しやすいからではないかと考えられる。

この点は海の写真も同様で、例えば広告写真の分野で活躍されている藤井保氏の写真集『ニライカナイ』も横位置で撮られている。

それに対して縦位置の写真の典型はポートレイト(人物写真)である。また絵画の分野でも肖像画はやはり縦位置の作品が大部分を占めていると思われる。
これらは一つには、全身像にせよバストアップにせよ、縦位置の構図の方が余白のバランスが良く感じられるためではないかと考えられる。

ポートレイトの構図により、ビーチに生き物のような存在感が与えられる

このように縦位置はポートレイトの典型的な構図であるため、この構図を取り入れることでビーチの風景が無意識に擬人化され、あたかも生き物のような存在感を生み出し、これが不思議な雰囲気の醸成に一役買っているのではないかと考えられる。

なお今回の展示にはステートメントが存在しない。
次のページでは、この点について考えてみたいと思っている。

展示は6月1日(火)まで。お見逃しなく。

土屋祐子「マイオウンビーチ」ギャラリー公式ページ

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