要約:ART TRACE GALLERYの植野智子『乾と水脈ー海流の果ての地で』の作品《骨のような器》は、心より先に身体が反応するとういう感覚を味わうとともに、沸き起こる情動を身を任せる心地よさも感じることができる作品でした。
先週、ART TRACE GALLERYで当番をした際に、植野智子さんの個展『乾と水脈ー海流の果ての地で』を拝見しました。
今回の記事はその感想です。
プリミティブアートを思わせる作品《骨のような器》
入り口奥の大展示室には、ご覧のように自然物で作られたオブジェや版画作品などが設置されていました。
これらの作品の中でも特に印象に残ったのは、木片や石などをサークル状に並べた《骨のような器》という作品でした。
作品タイトルにも示されているように、樹皮が剥げ落ち風化して白くなった木片が、まるで動物の骨のように見えます。
このためその有り様はプリミティブアートを思わせるものでした。
身体が吸い寄せられるように作品《骨のような器》に釘づけ
この《骨のような器》を前にして、私は普段のアート鑑賞とは異なる体験をしました。
普段のアート鑑賞では関心、つまり意識的な部分が気に入った作品に反応を示すことがほとんどですが、今回は文字どおり体が吸い寄せられるようにして《骨のような器》に近づいて行ったのです。
(実際、下半身から先に前に出て、上半身がそれに引っ張られるような感覚を味わいました)
展示を見に行って、こんな経験をすることは滅多にありません。
思考の働きを鎮め、情動に身を任せることの心地よさを味わう
作品《骨のような器》では、さらに普段の普段のアート鑑賞とは異なる体験をしました。
それはただ《骨のような器》と対峙する、より具体的には普段活発に作用している思考の働きを鎮め、沸き起こってくる情動にただただ身を任せることの心地よさでした。
海岸で波の音を聞きながら長い時間ボーっと過ごしたことがある方もいらっしゃる方と思いますが、あの感覚に近い感じです。
展示は5月5日(日)までです。ぜひご覧ください。
ART TRACE GALLERY 植野智子『乾と水脈ー海流の果ての地で』公式ページ
追伸) 今回の植野さんの個展を拝見した経験から、社会学者のハワード・S・ベッカーが『アート・ワールド』でも論じている、フォークアートやナイーブアート(プリミティブアート)の魅力について、自分なりに考察してみたいと思いました。
こちらは別途、記事にする予定です。